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東京漂流


音楽談義がひとしきり続きましたが、今回は思い出の本について書きます。

どんどん、軽くなる80年代にいきなり殴り込むように登場した本"東京漂流"。わたしが生まれてこの方もっとも影響を受けた本を三冊挙げよ、言われたら間違いなく選ぶ一冊です。(あとの二冊は、芥川龍之介の「くもの糸」と、夏目漱石の「それから」。)

今の会社に入って、いちばんの友達だった同期と毎日音楽や本や写真やらの話をしてたら、「おまえ、これ読んでみ。」と言われてこの本を渡された。軽・薄・短・小の「軽チャー時代」に挑戦するかのように、ぶ厚く、また、無骨なぐらい素っ気なく、けれども存在感に溢れた装丁。「おまえら、読むんだったら、心して読めよ。」と、本の方が逆に読者を選んでいるかのような面構えの本だった。帯には、「墓に花を供えるのか、ツバ吐きかけるのか。」という文章。

この本の背景にあるのは、どんどん軽くなっていく世相に対して、見えにくくなっていく「死」というものから再度われわれの生活を再検証するという考え方である。先週、「80年代の、軽さのウラにある絶望」という話を書きましたが、藤原新也はその絶望をアーチスティックにパロディかしてしまうのでは無く、その事象に迫りわれわれにもう一度人間としての「自由なあり方」について問いかける。~ 絶望的な状況に気づいたならそれでよし。で、キミはどうするのか?? と。

「墓に花を供えるのか、ツバ吐きかけるのか。」という文章は、そういった彼のメッセージであった。

入社まる1年たったところで、この本を薦めてくれた友人は寮の一室で突然亡くなった。持病のぜんそくからくる心臓マヒだった。広告という、ある意味もっとも「軽い」世界に飛び込んだ僕たちの前に突然突きつけられた重い「死」。彼とのつきあいのなかで、いろいろインスパイアされていた社会人2年目の春、彼の死によって自分の成長が止まってしまうのではないかと思えるほどの衝撃を受けた。いらい、この本は僕にとって忘れられないものとなる。

明日は彼の命日だ。

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